一級建築士の資格を持っているので工事監理は自分でやることにした。
設計図は確認申請に最低限必要な平面図、立面図、断面図しかない。
納まりや軸組については現場監督がいないため、大工の棟梁任せになる。本来、工務店が請け負っているのだから管理者を置いていなければならないはずであるが居ない。
平日は仕事があり昼間は現場に行けないので、夜10時過に帰り道に寄り道して現場を巡回しその日の仕事をチェックし、翌日に携帯電話で連絡する毎日だった。幸い、土日も仕事をしていたので、棟梁との打合は一週間分をまとめて行った。
設計時点ではディテールについては全く決まっていなっかったため工程をよく理解して、材料の刻みや手配の前に指示する必要があった。特に外壁通気や基礎断熱については考え方は打合していたが実際の納まりは検討していないし、外壁のセルロース断熱も初めての経験だったが、密に打合せすることで、色々問題を抱えながらもなんとか納めることができた。
第一回の打合せは、基礎の納まりについて行い、基礎工事担当の鳶さんと大工の棟梁に入ってもらって、
1。床下に入れるシロッコファンが入る高さであること。
2。床下換気口(開閉可能タイプ)が納まる高さ
3。将来の点検のために人が潜って入れる高さ
を与条件に一般に使っている型枠の高さで可能かどうか、断熱材の打ち込みのための間隔が標準のセパで可能かを検討し基礎高さを610mmに決定した。
基礎の断熱材は、ダウ工業のスタイロフォームGK25mm打込とし、基礎立上りは内側に打ち込む。耐圧盤は外周部のみ耐圧盤の下へ打ち込んだ。ここでの失敗は断熱材の材料指定をGKとしたのだが、GKは屋上防水の敷き込み用でコンクリートの打込には適しないとのこと。これが分かったのは実際に材料が現場に入ってきて表面を見ていやにツルツルしているなと思ってメーカーに確認して判明した。
メーカーに打込んだらどうなるかと聞いたらほとんど間違いなくはがれてきますとの回答だった。で、一か八か、鳶さんにわがまま言ってGKの表面を金ブラシでこすって荒らしてもらって打込んだ。結果オーライで、今もはがれずにくっついている。
後貼りする方法もあったが、躯体との間に隙間ができその部分に結露を生じる可能性があるのでできるだけ避けたかった。
毎日現場を見ていても見落とすことはあるもので、間仕切り位置の基礎立ち上がりのための指筋がずれていることを発見したのは、耐圧盤のコンクリート打設後だった。もう一日早く気が付いていれば修正の必要が無かった。現場を良く見ることがいかに大切か思い知った。打設が土曜日で日曜日は鳶さんも休みだったが、ずれてるとの連絡でわざわざ現場を見に来てくれた。
基礎の事前の修正もあり上棟はスムーズに行った。見事のひとことだ。あれだけの木材をあらかじめ刻んでおいて、現場でいっせいに建てて行く。大工の棟梁の刻みの正確さと刻んだ材料の管理の見事さには感心するばかり。一日で土台から棟まで軸ができてしまった。
外壁断熱工事
袋貼りしたシートの中にセルロース(新聞紙を再利用した綿状の材料でカタログ上は、熱貫流率がスタイロフォームRBと変わらない。それを圧送機で充填して行く。軸の厚みが105mmあるので断熱材の厚みも105mmとなる。セルロースの熱貫流率は0.04なので、かなりの断熱効果が得られるはずである。グラスウール断熱との大きな差は細かな綿状の材料を現場で充填するか、成型品をはめ込んで行くかの違いである。実際に現場を見ていると施工管理さえできていれば、全く隙間なく充填されて行くのでこれはなかなか良い材料だと思った。成型品のグラスウールの場合は、筋交いや成型品同士の取り合い部分でどうしても隙間が空き断熱性能が落ちる。またその部分で結露を生じてグラスウールがその水分を吸ってしまいどんどん断熱性能が落ちてくる。水分があるとかびの発生にもつながる。しかし、充填作業をしっかり見ていないと間柱と筋交いで複雑になっている所などはうまく入って無いこともあった。
鉄筋ブレースの納まり
設計図ではピロティ部分に鉄筋ブレースを入れるようになっているが柱、梁との取り合いが明記されていない。大工さんもこの納まりをやったことが無いらしく、柱に穴を空けて鉄筋を入れるだけで良いと思っていたようだ。実際は地震が来た時に引っ張られる方向に力が働くので刺すだけでは意味が無い。これは、こちらで取り合い詳細を作成し指示して作ってもらった。
外壁材料の変更による水平耐力の不足
設計図で外壁の下地に構造用合板倍率3倍の指定があり、設計事務所に確認するとこれを使う前提で筋交いの量をチェックしているとのこと。しかし、外壁は塗り壁のため、この下地を使うと将来のひび割れにつながる可能性が高い。木造建築(住宅)は木割り(モジュール化)が完璧と言っていいほど進んでおり部材どおしの取り合いも、神戸の地震からはクライアントの関心も高いせいも有って、標準的な納まりのものは図面が無くても大工さんが良く勉強していて大丈夫なのだが、ちょっと他と違う納まりをした場合はとたんに細かな指示が無いととんでもない物ができてしまう。また、設計士はプランを作り確認申請が通れば仕事が終わるので、仕事のやりにくさや、後でクレームにつながる仕様などは気にせず図面を作ってしまう。いざ作る段階ではそれをクレームにならないように仕様変更するがそれが耐震基準を満足しないということが起こり得る。
今回は、鉄筋のブレースと外壁の下地の仕様がそれに当たった。
鉄筋ブレースは、木造との取り合いが一切明記されておらず、取り合い金物をこちらで設計し現場で指示する必要があった。(別紙スケッチ)。
また吹き抜けが多く特に一階が構造的には厳しい状態なので、外壁下地は構造的に3倍に評価できる合板下地が設計図に明記されていたが、この下地を使うと塗り壁の場合は、下地の継ぎ目でクラックが入る可能性が高く、”荒し”というモルタル用の下地を使うが、これだと構造的には1倍にしか評価できない。設計図上の耐震性が確保できない事になる。そのため、筋交いを工事中に追加する必要があった。総合的に現場を管理する監督もいなければ設計図どおりに施工されているかをチェックする工事監理者もいないし、設計だけを請負って工事監理はやらない設計事務所と、構造計算上は必要でも実際に使用するとクレームにつながる材料を勝手に変更する工務店との組み合わせでは、なかなか性能を維持することは難しいと思った。
今回は自分自身が工事監理者になり一応のチェックをしていたので手遅れになる前に見つけることができたが、外壁の仕様が決定した段階で自分なりに構造チェックしたことと、設計事務所に確認を取り筋交いを追加することでクリアーした。
棟換気の結露対策
通気システムで、最終的な空気の出口となる棟換気の開口が屋根の最上部についている。冬は、室内で暖まった空気がそこで急に外気で冷やされるため露点温度を下回る可能性がある。棟換気内部の結露は製品として問題ないようになっているが、下部に見えている枠に結露するとそのままロフト天井に落ちてくる。大工さんと相談した結果、結露受けを下に置くことにした。特に排水は取らずためて置いて蒸発を待つシンプルなものとした。
サッシュ枠と断熱材の隙間処理
アルミサッシュを木軸に取り付ける際に、サッシュにビス用のリブがありこの部分がヒートブリッジとなって壁の中に結露する可能性がある。ホームセンターで1本500円でスプレー式の発砲ウレタンが売っているので、買ってきて自分で充填することにした。棟梁の許可をもらい、日曜に工程のちょうど良い時にやった。これは工事監理というより直営工事である。
カラースキーム
内外装の色を決めて、工務店の事務の女性にリストにして渡したが、使う部屋と材料が職人さんに間違いなく伝わるように、決めた見本を5cm角に切り取って使う場所に張った。こうすればまず間違いなくどのクロスをどこの部屋に使うかを間違えることは無い。